理事長ご挨拶

理事長に就任して(平成18年2月)

日本更年期医学会
理事長 水 沼 英 樹

麻生武志理事長の後任として本学会理事長の役を仰せつかることになりました。20年前に産婦人科更年期研究会として発足した日本更年期医学会は1993年に日本更年期医学会となり、現在は約1600人強の会員を擁する名実共にわが国の更年期医学の牽引学会としての役割を担うまでに発展しております。高齢化社会の到来を迎えた我が国において、高齢女性のQOLをいかにして守り維持して行くかは最もプライオリティの高い課題の一つとなってきました。

 学会とは本来は同学の士が集まり真理の探究を目的としてきましたが、昨今では、保険、介護、医療福祉など社会的な医療問題にも関与して行くことが求められるようになっています。更年期医学会も例外ではありません。むしろ、更年期医学会ほどその責務が重くなっています。本会の規約には、「更年期・老年期の生理、病理及び実地臨床に関する研究の進歩を図ること」と「もって、人類・社会の福祉に貢献する」ことの2つの目的が謳われておりますが、これはまさに学会の性格と、その任務と到達目標を如実に言い表したものです。この理念が到達できるよう粉骨砕身尽力致しますのでご指導のほどどうぞ宜しくお願い申し上げます。

 これまでの我が国の更年期医学は、疾患単位から見れば更年期障害、骨粗鬆症、脂質代謝異常などエストロゲン欠落に基づく疾患や病理病態の解明を中心とし、また治療的側面からはHRT、漢方療法、心理療法、生活療法などの効果評価に関心の中心が据えられてきました。また更年期医学に携わる者にとってはこれらを総体的にしかも臨床的観点から関わることでその役目を果たして来ています。更年期医学に対するこのスタンスはこれからも大きく変わることはないと考えます。しかしながら、このような立場は好意的には包括的、全人的医療を展開しているということになりますが、ともすれば高度専門性の欠如の裏返しということになりかねません。

 さらには更年期以降の女性の好発疾患には上記以外にも糖尿病、高血圧症、甲状腺機能障害、悪性腫瘍などがあり、米国ではプライマリーケアーの観点からこれらの疾患に対する問題点や対処法が婦人科教科書にまで記載されています。従いまして、学会の将来的な問題として真に全人的な医療を推進し普及していくためにもこの分野への裾野を広げる必要があるのではないかと考えています。学会はそれが何であれ専門家の集団から構成されますので、専門家の興味を引き、専門家が進んで参加し発言したくなるような学会に育てなければなりません。そのためには学会は常に進歩して行くこと、および新しい情報の発信源であり続けることが必要となってきます。「更年期」や「更年期障害」という言葉は広く一般に受け入れられた概念であり、女性なら誰でも将来に通過、もしくは経験する問題です。したがって、参加者への窓口はむしろ広く、本学会は参加し易い学会の一つと考えます。ですから、この利点を十分に活かして、更年期医学会の独自性と専門性の確立を計り、新しい領域への進出とそれらの統合を目指して行きたいと考えております。

 日本更年期医学会の特筆すべき事業として全国の看護師を対象としたJapan Nurse Health Studyが展開されています。この事業は間違いなく本邦女性における加齢に伴う疾病構造の変化や因果を明らかにして行くと思います。そうなれば将来の疾患の予防法を立てる上できわめて重要なエビデンスとなり、本邦女性のための確固たる更年期医学が確立されて行くと思います。今日の医学は治療から予防へとパラダイムの変化が求められました。この観点に立てば、更年期の問題点を明らかにし、それがどのようにして老年期の諸問題の発症に結びついていくのか、そしてそれを予防するにはどうすれば良いのかを論理的に,かつ前方視的に解決して行く手段を見つけることが重要です。引き続き本学会が更年期医学、ないしは医療のリーダーとして存続して行けるよう是非多くの皆様に参加していただき本会の発展に寄与していただきたいと存じます。

平成18年2月